• 2018.03.18
  • intext "DEATH OF FUNCTIONS" ART BASEL HONG KONG 2018

intext(見増勇介・外山央・真下武久)
会   場:Hong Kong Convention and Exhibition Centre
ブース:3D37 (Insights)
会   期:3月29日(木)~3月31日(土)

https://www.artbasel.com/hong-kong




グラフィックデザイナーの見増勇介 、 外山央とプログラマーの真下武久で構成されるインテクストは、文字や映像、音による情報伝達のあり方を捉え直し、言語や文化に関わるより普遍的なメッセージを生み出すことに関心を持つ アーティストです。彼らが普段たずさわるグラフィクデザインやコンピュータプログラミングの仕事では、人やコンピュータに対して適切な情報を伝達することが求められますが、彼らは情報の内容よりむしろ、情報伝達を支える文字や映像、音そのものに注目すべきメッセージや体験があると考えています。インテクストの作品では、本やディスプレイに独自の加工を施すことで、その内容を読み取れなくする一方、かすかに残る内容の痕跡から、そこに潜む言語や文化、コミュニケーションに関わる普遍的なメッセージを浮かび上がらせます。

形式の中に潜む普遍性

本展示の中心となる作品「dimensional wall」は、様々な国の辞書を裁断し、その断面を撮影、拡大した写真で構成されます。辞書を異なる次元から観測しているようにも見えるこの作品は、その内容を読み取ることはできませんが、 断面に残された文字の痕跡から、各国の言語に固有のフォルムやリズムが立ち現われ、言語がもつ普遍的な特徴 を直感的に感じ取ることができます。辞書はメンバーが様々な国に渡航した際に入手したものを用いており、日本語、韓国語、英語、ドイツ語、アラビア語など、各言語の違いを体験することができます。私たちは多くの場合、言語の間に文字や文法、発音の違いがあることは共有していますが、文章を構成する字間や行間、余白などにも言語の 特徴があることに気づき、そこに含まれるプリミティブな差異を作品から知ることができます。同様に、彼らの代表作「reading method」は、人類が複数の言語を使うきっかけとなる内容が記された「バベルの塔」の一節を、コンピュータに朗読させます。この作品では、コンピュータは人間が読むように文頭から順に文章を読むわけではなく、字の並びを横断するように読んだり、逆から読んだり、または一行の文字全てを同時に発話するように読みます。このような読み方を人間が行うことは困難であり、コンピュータによるテキストスピーチの機能を用いてはじめて可能になる読み方です。人間は意味を理解しながら朗読を行いますが、コンピュータは与えられたルールに基づいて意味内容を理解しないまま朗読を続けます。しかしながら、スキャナが 図像を走査するように朗読が行われることで、文字の上下左右の並び方や、母音や子音の配置、空白の配置、音が重なりあった時のノイズに至るまでが、言語によって異なるということが、極めて直感的に、音の体験として立ち現われてきます。本の中の文章は、人間の読み方に対して最適であるようにデザインされていますが、「reading method」から奏でられる音声からは、そのデザイン的配慮までもが言語や文化固有のものであることを明らかにし、本来のものとは全く異なる視点から、小説の読書体験を提示します。

DEATH OF FUNCTIONS

展示のタイトルである「DEATH OF FUNCTIONS」は、インテクストのメンバーが普段仕事として扱うような、本や映像、音による「適切な情報伝達」に対するアンチテーゼの表明です。現代における情報は、物質よりもはるかに膨大な「消費」の対象であり、個々に伝達される情報の寿命は極端に短く希薄です。近年「ポスト真実」といったキーワードが取りざたされる通り、現代においては情報の質もまた担保はされず、もはや情報は受容する快楽だけに価値が置かれ、社会一般に蔓延しているようにすら思えます。このような情報をめぐる現状に対して、インテクストの作品はメディアの情報伝達、内容伝達の機能に無効化し、より普遍的なメッセージを浮かび上がらせることで、私たちが見る、読む、聞く、触れるとは何かというコミュニケーションの根源的な問題について再考させます。これは現代社会における情報の受容の問題であると同時に、芸術において長らく語られてきた、作品の受容の問題、すなわち美学(感性学)に通底するテーマであり、社会と芸術の両方に新しい視点を提供するものといえます。