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Yoshiro Sakurai / The Presence of Absence / 2025 / 570 × 900 / Gelatin Silver Print / ed 3

  • グループ展「PORTRAIT」エミリー・アンダーセン、トビアス・カッペル、櫻井啓裕、トマ・ジラン、ルーカス・フォレット・セリンスキ、平川典俊
  • 2025.07.05 Sat - 2025.07.26 Sat
    • 平川典俊アセット 1
    • ルーカス・フォレット・セリンスキアセット 1

STANDING PINE 東京では、7月5日(土)より、グループ展「PORTRAIT」を開催いたします。本展には、エミリー・アンダーセン(イギリス)、トビアス・カッペル(ドイツ)、櫻井啓裕(日本)、トマ・ジラン(フランス)、ルーカス・フォレット・セリンスキ(ブラジル)、平川典俊(日本)の6名が参加いたします。

「ポートレイト」という言葉が喚起する伝統的な肖像表現から逸脱しながらも、その本質にあらためて向き合おうとする本展では、参加作家たちによる作品が、イメージや記録、身体性、セクシュアリティ、時間といった多層的な要素を内包し、それぞれが人と作品との関係性に新たな視点を投げかけます。

エミリー・アンダーセンは、廃墟となった産業施設や都市のインテリア空間を静謐な視点で撮影し、日常の中に潜む詩情や記憶の痕跡を映し出す作品を制作しています。また、1980年代よりポートレート写真を撮り続けており、今回展示されるナン・ゴールディンをはじめ、数多くの著名な作家、詩人、映画監督、俳優、建築家たちを被写体としています。彼女の映し出す世界には、雰囲気や詩的な表現への美意識が一貫して息づいており、さらに、彼女は写真というメディアを通じて、肖像という言語、時間という概念、そして記憶の表象を探求し、日常を静止画として捉えるそのプロセスを丹念に研究し続けています。

写真が現実を写すだけのメディアではなくなった現代において、トビアス・カッペルは、イメージ制作の新たな可能性を探求しています。アナログとデジタルの中間領域を横断する彼の作品は、ジャンルの境界を超えながら、視覚表現の真正性や最終性に問いを投げかけます。「impssbl's nthng(2019)」は、オールインワン・プリンターの機能を用いて制作されたシリーズ「brother」の一作であり、スキャンや複製の過程で生じるノイズやエラーを積極的に取り込みながら、機械が視覚情報をどのように「見て」「理解するか」を遊び心と批評性をもって探ります。

櫻井啓裕による「Untitled (#5)(2025)」と「Untitled (#7)(2025)」は、2002年にパリのファッションショーで撮影されたバックステージの情景をもとに構成された作品です。オートクチュールの舞台裏に漂う緊張感や高揚感、モデルたちの繊細な表情を記録を超えた視点でとらえたこれらの写真は、23年の歳月を経て、記憶と時間が交差する静謐なナラティブとして立ち上がります。また、最新作では、「匿名性」と「集団性」そして「不在の気配」を通して人間の存在の輪郭を描き出し、アーティストの不在を感じながらも、その余韻に身を浸す彼らの姿は、記憶や感情の中に刻まれた「肖像」として浮かび上がります。そして、霧の中に浮かび上がる群衆は、それぞれが孤立しながらも、全体としては「一つの感情の塊」のように見え、個人は輪郭を失い、集合的な「気配」や「感受性」だけが立ち現れます。

空間全体との関係性に呼応し、そのネガティブスペースを浮かび上がらせるように設置されるトマ・ジランの立体作品は、彼のドローイング作品に通底する、平面と奥行きの錯覚のあいだで生まれる視覚的相互作用と対をなしています。空間そのものを一つの自律したアイデンティティとして捉えるとき、そこに設置されたこの作品が立ち上げる空間的な存在感は、まるで空間そのもののポートレイトを描き出しているかのようです。

ルーカス・フォレット・セリンスキの作品は、身体を束縛と解放の場として見つめ、クィア・セクシュアリティに焦点を当て、快楽のニュアンスと身体体験による強烈な感覚について考察します。そして、ジュエリー制作やテキスタイル、アナログ写真、手焼きプリントといった手作業を重視した技法を用いることで、身体をめぐる感覚的な体験を物質性をもって表現しています。より親密な世界を描き出したモンタージュ写真シリーズ「La Petite Mort」では、快楽、愛、死といった根源的なテーマに詩的にアプローチし、感覚の極限に触れるような瞬間を繊細に捉え、アナログモンタージュ写真、多重露光、シルクスクリーン、写真をほかのメディウムに移行するフォトトランスファーといった技法を駆使しながら、BDSMの恋人や友人たちを映し出した視覚的なイメージと、裸身であり、官能的である一般的な芸術彫刻を重ね合わせることで、プライベートで親密な刹那と典型的な身体表現との対話を生み出しています。

平川典俊は、ユング心理学における「アニマ」の概念を出発点に、女性が自身の内に抱える男性像=アニマを被写体として演じることに着目した写真シリーズ「The anima’s talent」を制作しています。アニマを単なる女性像の元型ではなく、内面に潜む男性性として捉え、女性がその役割を引き受けることで、逆説的に「内面に存在しない女性性=他者としての男性性」を演じるプロセスが浮かび上がります。本シリーズでは、歌舞伎や宝塚といったジェンダーの演技的伝統にも言及しながら、快楽やアイデンティティの構造にアプローチします。今回の出品作では、南明奈がその「アニマ」の被写体を演じ、写真の中で女性性と男性性の揺らぎを可視化するものです。

本展を通して、彼らの作品と対峙するなかで浮かび上がる「差異」は、鑑賞者の個人的な記憶や経験と結びつきながら、肖像という表現形式のあり方を静かに問い直します。


会期:7月5日(土)– 7月26日(土)
開廊時間:12:00 - 18:00 ※日月祝休廊
オープニングレセプション:7月5日(土)17:00 - 19:00
アーティスト在廊予定


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エミリー・アンダーセン
ロンドンを拠点に活動するアーティスト。ロイヤル・カレッジ・オブ・アートを卒業後、肖像写真や都市や建築空間、記憶と時間の層を主題とした写真作品を制作している。これまでにロンドンのThe Photographers’ GalleryやICA、The Canadian Museum of Contemporary Photography、The Scottish National Portrait Gallery(エディンバラ)、MASS MoCA(米)、Jehangir Art Gallery(ムンバイ)、China Arts Museum(上海)、BOOKMARC GALLERYおよびLOWW Gallery(東京)など、国内外の美術館やギャラリーで作品を発表。ロンドンのThe National Portrait Galleryには、複数の肖像作品が収蔵され、ポートレート分野ではジョン・コバル賞などを受賞している。

Nan Goldin. / 2022 / 375× 375mm / Archival Pigment Print / ed 5 + AP

トビアス・カッペル
1987年ポツダム生まれ。ミュテシウス美術大学(ドイツ・キール)でマルチメディア写真とテクニカル・イメージを中心にビジュアル・コミュニケーションを学ぶ。在学中にはDAADの奨学金を受け、ニューヨークで活動。これまでにC/O Berlin(ベルリン)、Museum Kunst der Westküste(ドイツ・フェール島)、Alfred Ehrhardt Stiftung(ベルリン)、Frontviews(ベルリン)、CONTACT Photography Festival(トロント)などで作品を発表している。ポッドキャスト「Fotografie Neu Denken」や「C4 Journal」、「Fototreff Berlin」などへの寄稿も行い、近年、写真をめぐる実験的かつ批評的な実践で注目を集めている。

mpssbl 's nthng / 2019 / 450 × 600mm
Inkjet Print Mounted on an Alucore Panel / Unique

櫻井啓裕
90年代後半にファッションを学ぶため渡仏し、パリのファッションスクールに留学。2000年の一時帰国を機に、独学で写真制作を始める。翌2001年に再び渡仏し、友人が関わっていたメゾンのコレクションに参加した際に撮影した写真をきっかけに、ランウェイのバックステージを正式に撮影するようになる。記録用とは異なる視点で撮りためた写真は、時間の経過や記憶のあり方に焦点を当てたシリーズ、「影の中の輝き -ETUDE 25 to 48-」として発表された。

Untitled #5 / 2019 / 450 × 600mm / Gelatin Silver Print /  ed 5

トマ・ジラン
フランス生まれ。美術の修士号を取得し、現在は東京を拠点に活動している。スプレーによる油彩のレイヤーを幾重にも重ねることで、平面性と知覚される奥行きとの間を行き来する作品を制作している。物理的には滑らかな画面を保ちながらも、ジェスチャー的な筆致や調和の取れた色彩によって、曖昧な視覚空間を創出する。その表現は、絵画とデジタルの美学の境界を曖昧にしながら、絵画空間の知覚そのものに問いを投げかけている。

Comer elevation, hollowed-out / 2025 / 550 × 550 × 550mm 10cm depth / Jesmonite / Unique


ルーカス・フォレット・セリンスキ
ブラジル生まれ。ミュンヘン美術院で修士号を取得し、現在はドイツ・ベルリンを拠点に活動する学際的なアーティスト。近年の主なプロジェクトに、「Novel Pleasures」(Hamburger Bahnhof/ベルリン、2024年、ジェームス・リチャーズとの共同制作)、「Let Life Be Beautiful Like Summer Flower」(Wärmühle/バーゼル近郊、2023年)、「Body-Modification as Artistic Practice」(APP/ラスベガス、2023年、講演)、「Archiv-Salon: Queer Pleasure & Pain」(Schwules Museum/ベルリン、2022年)、「Tender Traces」(OR Gallery – Yuan Museum/重慶、2021年)、「Intimacy: New Queer Art From Berlin and Beyond」(Schwules Museum/ベルリン、2021年)、「Libidinal Motion」(Galerie Delmes & Zander/ケルン、2018年)、「Suture Pénétrable」(Standing Pine Gallery/名古屋、2017年)、「Passion」(Museum Ludwig/ブダペスト、2016年)、「Slash: In Between the Normative and the Fantasy」(Kim? Contemporary Art Centre/リガ、2015年)、「Berlin Artists’ Statements」(BWA Contemporary Art Gallery/カトヴィツェ、2015年)、「Bedded-Down Knot」(Künstlerhaus Bethanien/ベルリン、2015年)などがある。

Fixation Nature / 2024 / 71.5 x 61.5 cm (framed) / Unique
Black and white photograph, hand-printed on baryta paper.
Hand-printed passepartout by the artist


平川典俊
1960年に福岡で生まれ、1993年よりニューヨークを拠点に活動する。応用社会学を学んだ後、1988年より作家活動をはじめ、現在は国際的な現代アーティストとして知られている。写真、映像、ダンス、インスタレーション、パフォーマンスなどの多岐に渡る作品を制作し、その作品は世界各地の美術館、アートセンター、ギャラリーで300回を越える展覧会において発表されている。Venice Biennale (ヴェニス)をはじめ、Site Santa Fe Biennale (ニューメキシコ)、Istanbul Biennale (イスタンブール) などの国際展や、MoMA PS1 Museum (ニューヨーク)、Centre Pompidou(パリ)、Museum fur Modern Kunst(フランクフルト)、Leeum (ソウル)、Hermes Forum (東京)などの個展・グループ展に参加。その作品は、M+ Museum(香港)、東京都現代美術館、ボルドー現代美術館、フランクフルト現代美術館などに収蔵されるなど、国際的にも高い評価を得ている。

The anima’s talent / 2014.2016 / 45.7 x 30.4 cm (print size)
C-Print (Fuji Crystal Archive) / ed 10


協力 : LOWW Gallery

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